私が”藤袴美衣”とかマジひくわー第1話「四糸乃パペットⅠ」

 この世界には、精霊という者が存在する。正式には、特殊災害指定生命体と呼ぶらしい。臨界からやってくるそれは、発見しだい殲滅するのが、被害を食い止める方法だが、実はもうひとつだけ方法が存在する。それは、精霊をデレさせること。

 それをどこで知ったのかは思い出せない。私が知っているはずはない知識が、流れ込んできた。それは、先日転入してきた夜刀神十香を見た瞬間に、頭のなかに文字が浮かんできた。まるで見知らぬ人間からメールが送られてくる感覚に似ている。コンパクトに詰め込まれているデータは、開封するまで分からない。だから、ぽっと出てくる知識が、一気に流れ込んで廃人になるなんてことはない。しかし、知識が浮かぶ旅に小さな痛みが、頭を駆ける感覚は嫌いだ。定期的に流れてくる知識に戸惑いながらも、重要なことだと感じた私は、情報をノートに記録し始めた。

 情報の一塊を、鍵を開けるイメージで開封する。頭に浮かんだ言葉を、ノートに記載する。今は授業中だが、誰も咎めはしないだろう。教壇に立つ先生は、解説しながら板書するが、私は別のことをノートに記載する。

 記憶に基づくと、私は人間ではないらしい。数日前までは、たしかに人間だった、と思う。いや、もともと精霊で、自分の正体を忘れていただけかもしれないが。数日前、私は自分自身を精霊だと認識した。

 私の住んでいる天宮市には、空間震という災害が多発している。ここ最近でも、空間震が起こりシェルターに非難したばかりだ。しかし、この災害は精霊がこの世界に現界したときの余波だということを、記憶が告げていた。そして、その精霊に関わっているクラスメイト、五河士道と鳶一折紙のことを、忘れないうちにノートへ記載した。

 それにしても、私が"精霊"だったなんてね――。

 私は人間たちの殲滅対象で、五河士道のデート相手となるのだ。そして、もしかしたらクラスメイトに殺されるかもしれない。考えただけで、気持ちが悪くなる。つい先日まで、普通の人間だったはずなのだ。何がどう間違ったら、精霊などという存在になるのだろうか。これは神様のイタズラに違いない。

「美衣、いつまで教科書開けてるの?」

 私の親友、山吹亜衣、葉桜麻衣が声をかけてきた。

 教卓の真上の時計を見ると、針は授業終了の時刻を示していた。

 私は、浮かんでは消える記憶を処理しているうちに、終了のチャイムに気づかなかったようだ。

 金髪を後ろでまとめたポニーテールと栗色のショートヘアーが、私の席の両端から覗き込む。

 私はあわてて、ノートを隠した。

「あれあれ、どうしたのかな?」

 亜衣が、にやけた笑みを浮かべている。

「なんでもない」

 私は急いで、教材を引き出しにしまった。

「それより、このあとは調理実習でしょ。はやく準備していこうよ」

 精霊だとばれないために、私はそしらぬ顔で日常生活を過ごさなければならない。お腹にでっかい風穴が開くとも限らないのだから。

   

「クッキーとは、どういうふうにつくればいいのだ?」

 調理室の隅で夜刀神さんは、頭にハテナマークを浮かべていた。

 先日転入しきた夜刀神さんは、実は箱入りお嬢様ではないかという疑惑が、私たち仲良しグループの中で発生していた。お嬢様というわりには、おしとやかな雰囲気はなく、転入初日から活発に動いている印象が目立つ。

「夜刀神さん、こっちにきて私たちといっしょにつくらない?」

 麻衣があたふたしている夜刀神さんに、手招きをしている。

「教えてあげるから一緒につくりましょう」

 亜衣が、夜刀神さんの手を引っ張り、私たちのグループに引き込んだ。

 それから、材料の分量の図り方や生地のこね方を教えたのだが、彼女はのみこみがはやい。教えたことをすぐに吸収して、きれいなクッキーをつくってしまった。マンガでは、こういったはじめての作業というものは失敗するものである。しかし彼女の場合は、彼の愛ゆえなのか、きっちりとつくってしまった。

「これがクッキーというものか!」

「夜刀神さん、クッキーをしらないの!?」

「たぶん、市販よりも出来がよかった的な、そういう意味なんじゃ?」

「マジひくわー」

 見た目はとてもおいしそうだ。彼のために愛情が詰まっている証拠。

 愛は偉大だ。

「シドー! クッキーというものをつくったぞ!」

 焼きたてのクッキーを、早く彼に食べてもらいたくて、ステップをふみながら夜刀神さんは、満面の笑みを浮かべながら、教室に入っていった。

 その表情を見ると、自然と頬がゆるんでくる。

「なんというか、五河くんがこんなに想われているなんてね」

「応援したくなるよね」

「ほほえま~」

 実習を終えた私たちは2年4組に戻ってきた。十香は、はやく五河に食べさせたかったのか、駆け足で教室に戻っていた。私たちが教室に戻ったときは、夜刀神さんと鳶一折紙が五河をはさんでもめていた。

「貴様、なぜここに!?」

 夜刀神さんの問いに答えず、鳶一は頭を下げた。

「ごめんなさい」

 静かに謝罪の言葉を告げる。私たちや他のクラスメイトは何事かと、注目の的な3人を黙って見守る。

「あやまってすむ問題ではないけれど」

「超天才が、なんで五河くんに謝ってるの?」

「なんか弱みにぎられてるんじゃない?」

 なぜかは私も知らないが、とりあえずこの言葉を贈っておく。

「マジひくわー」

 五河くんは、周りの視線を気にして鳶一に頭を上げるように促した。

 鳶一は、謝罪が終わった後、五河くんのネクタイをつかんだ。不良が、ちょっと面かせや、と言っているような体勢だ。

「でも、浮気はダメ」

 爆弾発言とも言えるつぶやきが、教室の入り口付近にいる私たちにまで聞こえてきた。

「え、五河くんって二股かけてるの?」

「マジひくわー」

 ギャルゲー主人公ならいざ知らず、リアルで二股かけている男はだらしないのだ。一人の女性に愛をささげるのが一番である。

「私のクッキーを食べてくれ!」

「私のクッキーを食べるべき」

 クッキーを差し出された五河くんは、両手で2人のクッキーを同時に食べていた。その後、食べた時間が早い、遅いなど争っていたが、五河くんがはっきりしないのが悪い。

 まさか、身近で修羅場がみられるとはびっくりだ。

「マジひくわー」

 その後、ギャルゲーマスターの殿町くんがあらわれて、しらけた空気を教室に充満させていた。

 雨の降る天宮市を私は傘をさして歩いている。

 いつもともにいる友人はいない。静かに考えごとをするために、ひとりで帰ることを友人たちに申し出たのだ。2人とも、微妙に残念な顔をしていたが、埋め合わせはまた今度しよう。

 自分はなぜ精霊になってしまったのだろうか?

 この世界で、私はどんな役割をもっているのだろうか?

 平穏な生活を送れるのだろうか?

 いつも考えることだが、不安が募るばかりだ。

 ちょうど神社に差し掛かったとき、緑色の物体とさらさらとした青色が目に付いた。私は、それが気になり神社の領域に踏み入れた。神社の敷地内に、どこか懐かしさと心地よさを覚えるなか、彼女を見つけた。

 緑色のウサミミパーカーと、さらさらな青い髪を持つ幼い少女。その瞳を見つめたとき、胸が高鳴った。

 ――この娘、精霊だ。

 自分自身が精霊だったためか、すぐに彼女がそういう存在であると認識した。

 私は彼女に近づくため、足を進める。あちらも私に気づいたようだ。だが、彼女は私が一歩進むと、一歩ずつ後退する。パーカーから見せる表情は、怯えているようだ。

『おやおや、お姉さん。それ以上近づくとやけどするよ』

 右目に眼帯をつけたうさぎのパペットが、口を開いた。おそらく、少女をまもる騎士のような存在なのだろう。

「ごめんね、あなたを傷つけようとする意思はないの。ただ、あなたがとても可愛らしいから。つい、間近でみたくなっちゃって」

 私は素直に、彼女を見た印象を答える。

 彼女は、可愛らしいといわれて、頬を少し赤くした。

『ぐふふ、当然だよ。よしのんは、とても可愛いからね』

「ぎゅっと抱きしめちゃいたいくらい」

 私は頬に手を当てて、彼女に見とれていた。

『お姉さん、ほめ殺しだね』

 パペットが積極的にしゃべるが、彼女は顔を赤らめてしまったままだ。

 このとき私は、キューピッドの矢にささってしまったのだろう。雨にぬれることもいとわずに、私は彼女を抱きしめるために両手を広げた。

「きゃっ!」

 彼女は小さな悲鳴とともに、その場から飛びのく。

 私は塗れた地面に顔からダイブした。

 ベチャ。

 雨音だけが神社を包む。

「ぬぐぐ」

 私は、顔を上げた。

「ひぃっ!」

 小さな悲鳴とともに彼女は、尻もちをついていた。自分がどんな顔になっているか分からないが、化物にでも見えているのだろうか。

「い、いじめないで」

 私が完全に悪者になってしまった瞬間である。私は立ち上がると、後方に転がってしまった傘を持って再び腰を下ろす。

「いじめないよ」

 私は彼女の前で笑顔をつくる。

「だって、私はあなたと友達になりたいんだもん。今から友達になろうとするのに、そんなことはしないよ」

『お姉さん、感動的なシチュエーションだけど、泥だらけの顔で台無しだよ』

 私は即座にスカートのポケットからハンカチを取り出し、メガネを取って顔を拭く。

 ――マジひくわー。

 内心で自分自身の軽はずみな行動に恥ずかしさが出てくる。

『おや、そろそろ時間のようだね、帰ろう四糸乃』

 パペットが、少女に言う。おそらくそれが、彼女の名前なのだろう。

「待って、私は藤袴美衣。あなたの名前を聞かせて」

『おっと、これはうっかりしてたよ。よしのんはよしのんっていうんだ。またね』

 次の瞬間、そこには何もいなかった。

 私は家に戻ると、すぐにシャワー室に駆け込んだ。黒髪についた泥を洗い落とし、体をスポンジで荒い、くまなく石鹸の泡で包まれた後、熱い湯で流した。体の隅々まで清めて、湯船に体を沈めた。

「よしのん、かあ……。あれでも私より強いんだろうなあ」

 ぶくぶくと顔の半面を湯に埋めて考える。

「それにしても、可愛かったなあ」

 私は、彼女の顔を思い浮かべて蒸気した。

 しかし、またもやってきた頭痛に顔をしかめる。

 どうあがいても、昔の私は存在せず、精霊としての私が湯船にうつっていた。

 精霊――特殊災害指定生命体――

 対策方法①

 武力を持って、殲滅する。

 対策方法②

 愛を持ってデレさせること。

藤袴美衣のノートより

 ここまで読んでいただきありがとうございます。『私が"藤袴美衣"とかマジひくわー』というタイトルで執筆したこの作品は、富士見ファンタジア文庫、アニメ第2期絶賛放送中の『デート・ア・ライブ』が原作です。アニメ第1期でほとんどのセリフが「マジひくわー」しか許されていなかった藤袴美衣を主人公にした物語です。様々な二次創作小説作品を紹介している当ブログですが、せっかくなので私も二次小説を書いてみることにしました。ジャンルとしては、原作キャラクターへの"憑依"ものです。

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