私は削れた大地の上に立っていた。
まるで隕石が衝突したようにクレーターができている。これは、現界した際にできる空間震という現象だと、ありもしない知識が頭にポッと浮かんでくる。 クレーターから見える風景は、大地震が起きた跡のように、崩壊したビル、瓦礫の山が広がる。
精霊が現界したときに起きる空間震ーー。その中心に私が立っているということは、何らかの理由で私が消失していたということだ。
自分の住む街を、自分の手で壊してしまったのだ。
「……あ、の」
裾を引っ張る感覚に、私は下を向いた。
そこには、ウサミミのついたパーカーを着た青い髪の女の子、四糸乃ちゃんが潤んだ瞳を向けていた。
「……あなた、は……だれ?」
「あれ、私は藤袴美衣だよ?」
自己紹介はしたはずだが、名前を覚えてもらえていないことに私は肩を落とす。
「……でも、あのひと……髪、しろくない」
「……え?」
自分の肩にかかる髪を右手で持ち上げてみる。
それは絹糸のようにさらさらした白だった。
慌てて自分の格好をみる。
白衣に紫色の袴だが、髪の色は黒からへ白変色しており、装飾は両端に鈴で結いている。 そして、普段愛用しているメガネは消えていた。
「……マジひくわー」
空を仰ぎ見て、私は呟かずには要いられなかった。
「私はこんななりをしているけど、藤袴美衣よ。髪の色がなんで変わってるのかわからないけど」
「……あなた、も……せいれい、ですか……?」
「ここにいるということは、そういうことかもね」
私は、腕を組んで答える。
「……そういえば、『よしのん』は見つかった?」
私の問いに、四糸乃ちゃんは首を横に振る。
「そっか」
空を見ると、豆粒ほどだが近づいてくるものが私の目に映る。
「でも、五河くんなら、見つけてくれると思う」
えっ、と驚きの呟きが聞こえた。
「あんなにカッコイイこといっちゃったんだから。やり遂げると思うよ」
四糸乃ちゃんの頭に手をおいて優しくなでる。
「だから、四糸乃ちゃんは彼に会わないとね」
私は四糸乃ちゃんに微笑むと、いつの間にか目の前まで迫った武装集団を睨み付けた。
空中に漂う武装集団との睨み合いが続いている。私たちが行動しないのを不振に思っているのか、銃を構えたまま発砲はしてこない。緊迫した空気が流れる中、私は静かに目を閉じた。
――とりあえず、五河くんと四糸乃ちゃんを合わせることが最重要。自分のことは二の次でいい。
「"私は精霊だから、できないことなんてないわ"」
自己暗示のようにつぶやき、武器を向けられている恐怖を押さえ込む。
「四糸乃ちゃん、あなたは五河くんを見つけ出して、『よしのん』を探すこと」
「えっ!?」
四糸乃ちゃんが目を大きく見開く。
「あの変な、えーと……、そうっ、水着姿に機械を背負ったようなマジひく集団なんか、"私がちょちょいのちょいとのしちゃうから!"」
彼女たちに聞こえるように、空に向かって声を上げた。
空に浮かぶ武装集団は、んなぁ、と変な声を上げ、みるみるうちに顔を赤くする。
「でも、きけん……」
「ともだちが、困ってたら助けるのはあたり前だから」
空の武装集団から目をそらさずに答える。
「いきなさい」
四糸乃ちゃんは、それに答えるかのように地面を蹴って空に舞い上がった。
「総員、攻撃開始。<ハーミット>を狙いなさい!」
空から聞こえる声に、私は腰から吊るしている刀を抜く。
武装から放たれるミサイルを見定めると、刀を横薙ぎに振りぬく。刀身から放たれた風がかまいたちのように、ミサイルを真っ二つに分断した。
「これは……」
私は自分のしたことが、まるで夢の中の出来事のようで理解できない。
「標的変更っ。あの精霊を狙いなさい」
見上げると、ミサイルの雨が私に照準を合わせて振ってきた。
「うりゃあああああ」
気合を入れて、刀をぶんぶん振り回す。振りぬくたびに風がかまいたちとなって、ミサイルを斬りきざみ爆発させる。
私は剣道有段者ではないが、問題はない。私が口にする言葉が、私を強くし、周りに影響を与える。そんなことがなぜできるのかという疑問が出てくるが、"私は精霊だから"の一言で納得してしまう。私が刀を振り回すたびに、敵の攻撃をつぶしていくのが楽しくなってきた。
「おっとっと、いつまでも遊んでないて"風のように逃げ回り"ながら、四糸乃ちゃんのお手伝いをしないとね」
私は軽く地面を蹴ると、風が助けるように上空に舞い上げた。
風が私を下から押し上げ、10メートルほどの空中で体を停止させた。風が止むと落下するため、下から常に風が送られている状態だ。
武装集団は、ただ空中で漂いこちらの様子を伺っている。その中でひとりだけ、耳に手を当てて何者かと話しているそぶりを見せていた。20代後半と思われる彼女は、おそらく無線か何かで組織の上官に指示を仰いでいるのだろう。順番に敵である彼女たちを見渡すと、見覚えのある顔があった。
――鳶一折紙。
クラスでの無表情の彼女とは別に、今は憎しみの表情がはっきりと出ていた。クラスメイトが目の前にいて、殺気を放っている。ついこの間まで、亜衣や麻衣と過ごしていた日常とかけ離れている状況に、めまいを起こしそうになる。
しかし――。
「友達を殺そうとするなら、あなたも敵なのよ」
私は、刀を上段に構えて力を込める。
「"ふきとばせ!"」
私の声に呼応するように空気が刀にまとわりつく。そして、刀身に渦巻く風を霊力とともに放出した。しかし、彼女たちはバリアのようなもので自身をドーム上に包み込み、風からの衝撃に耐えていた。竜巻のように前方に投射した風はあっけなく消え去る。
「新たな精霊だから、どんな力を持っているかと思えば……たいしたことなかったわね」
誰が言ったか分からないが、その言葉に私は表情を歪ませる。
「総員、目の前の精霊に攻撃っ!」
リーダー格の女性が指示を出し、銃撃が一斉に私めがけて発射される。
圧倒的な物量を1本の刀で、防ぎきれるわけもなく、風を通りぬけた一基のミサイルが正面で爆発した。
「きゃああああぁぁぁ――っ」
悲鳴を上げながら失墜する私は、風を体に纏い、地面への激突を緩和した。
目の前が赤くなる。ミサイルの破片が頭を切ったのだろうか。
私は追撃を恐れて、地面を蹴って走り出した。
「逃がすなっ、ここでしとめるのよ!」
ミサイルが次々に着弾し、視界を煙で埋め尽くす。
私は煙で視界が遮られているうちに、風を纏って敵から背を向けて跳躍する。
敵から離れても銃撃は鳴り止まず、音が恐怖として降り注ぐ。瓦礫の影や崩落したビルの傍を通りながら、敵の銃撃を殺す。アスファルトが崩れ、土肌が凸凹している地面を蹴る。
ミサイルによる地鳴りが耳に響き、恐怖感で胸を張り裂けそうになる。
「時間稼ぎはできたし、早く戦場から逃げたいんだけどっ!」
そのときだった。
前方から青白い光とともに、ビルを貫く人が現れた。
私は、思わず地面に足をつけて立ち止まる。
おそらく四糸乃ちゃんの能力によるものだろう。
「今だっ!!」
後方から、叫ぶような声が聞こえたような気がした。
振り返ると、ミサイルの先端が私の目の前に迫っているのが見える。
「ぁ……」
つぶやきは爆音や衝撃とともに消える。何が起きたのか分からず、体から激痛が頭を支配する。体が宙を飛び、崩落した建物の中に転がった。
「……う」
口から鉄の味がする。体に水が流れる感覚がある。意識が朦朧とし、痛みがなくなってきた。
このまま眠ってしまうと、自分は死ぬのだろうか。
自分の体が冷たくなるような感覚が、"死"という文字を描いた。
ふと目線を上に向けると、
肩にかかるくらいの髪をなびかせ、機会じかけの少女が光る剣を持って立っていた。
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ここまで読んで頂きありがとうございます。
デート・ア・ライブ二次小説『私が"藤袴美衣"とかマジひくわー』は、第二期アニメ放送中でも「マジひくわー」しかセリフのない少女、藤袴美衣を主人公にした物語です。ほんとうに「マジひくわー」しかセリフがないのかといえば違いますが、セリフはほぼ「マジひくわー」しか言っていません。
今回で一応「四糸乃編」は終了です。書いてみると、戦闘描写って難しいですね。小説投稿サイトに投稿されている作品を読むと戦闘描写がすごいものが多くてスゴイと感じます。私ももっと上手に描写できるように勉強しなければ!
次回から、「狂三編」へつづきます。
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