魔法少女育成観察日記

『魔法少女育成計画』をすると、1万人に1人がほんものの魔法少女になれるという噂がある。

これは、そのゲームアプリのプレイヤーで密かに噂されているもの。

この世のものとも思えない『絶品のたこ焼き』をつくる幻の屋台がある。

これは、グルメな人たちが噂しているもの。

それは、その場に似つかわしくない黒と白を基調にしたゴスロリ服の店主が焼いてくれるらしい。

しかし、幻のたこ焼き屋に出会った人は少なく、真実かどうかも分からない。

コスプレイヤーが経営しているとか、幼女が接待してくれるとか、噂に尾びれがついて、もはやとある人たちの願望だったという説が有力だ。

「なんだこれ?」

それは、仕込みの傍らに読んだ記事の感想だった。

吉田りんね。

噂の発生源の屋台を経営する、ゴスロリ服をきた少女は、使い慣れた道具をガシャンと地面に落としてしまったのだ。

まるでいかがわしいお店みたいに噂されていたのだから。

N市の通行人の多い場所は狙わず、あえて住宅街の外れに屋台を置いているのは理由がある。

りんねのほかに従業員がいないということ。

1日に作れる量が決まっていること。

つくればつくるほど、売り上げも上がるが、売れ残るリスクもある。

だから、1日につくる量を決めて、完売したなら早々に店を閉めるのだ。

土地柄によって、少々売れ残ることもあるが、その日の夕食になるため、廃棄することはない。

今日もN市でひっそりとたこ焼きを焼く。

ゴスロリ服に油が飛ばないように、エプロンをして。

〇月□日

N市に来て初めて店を開いた。

やはり無名の店には、客は寄り付かない。

食べさえすれば、このたこ焼きの味の虜になるというのに。

ゴスロリ服でつくっているのがいけないとは思う。

しかし、このスタイルを変える気はない。

〇月●日

いつの間にか、長蛇の列ができていた。

口コミの影響なのか、朝からてんてこ舞いだ。

しかし、昼が過ぎる頃にはだんだんとお客は少なくなり、材料もなくなった。

これからはちょっと多目に仕入れなければいけないな。

〇月☆日

同士がいた。

日がもう暮れて、月明かりに妖艶な顔が照らされたその人は、どこかのサーカス団員なのか、それともコスプレイヤーなのか。

ともかく、店の片付けをしている最中に彼女は現れた。

たこ焼きを一粒くれ、と。

なんだよ、一粒って。

などと内心思っていたが、閉店したあとだから追い払おうと口を開くも、発生できないことに気づいた。

久しぶりに感じた死の感覚に、私は慌てながら調理をし、出来立てを一玉差し出した。

彼女は、出来立てをかじり、味わいながら食す。

おいしかった、仲間にも広めておくと言い残し、わずかばかりの小銭を私に出したあと、気がつくと私の前から消えていた。

〇月◎日

先日の威圧感あるコスプレイヤーが来てから、個性の強い人間が来客するようになった。

黙っていれば美人なOLだが、口を開くと妬みな嫌みが飛び出す。

双子のような女子高生だが、笑い方が怖い。

おどおど自信なさげな中学生などなど。

とりあえず後々怖いので、たこ焼きを一個サービスしといた。

〇月▽日

今日は久々に夢を見た。

といっても胸の当たりが苦しくなる悪夢だったが。

まるで自分の死ぬところばかり狙って映像化しているようだ。

そんなシーンを見せつけられているとき、パジャマ姿に身を包んだ少女が現れた。

その神々しさは天使ということばがピッタリ合った。

彼女は私が落ち着くまで、体を抱き寄せてあやしてくれた。

彼女には、またお礼をしたい。

その日も、ねむりんは夢の中に入り、多くの人の悪夢を救っていた。

魔法少女の役目であり、マジカルキャンディーを集めるためだ。

しかし、彼女の頑張りは現実で反映されることはない。

悪夢を救っても、現実ではない以上、キャンディーは増えない。

それでも彼女は、人々の安らかな眠りのために夢の中を飛び回っていた。

「今度はここにしようかな~」

ねむりんがモヤモヤを潜り抜けると、景色が一変する。

視界が見慣れた街の風景になると同時に、何かが、もうスピードで横切った。

後方で大きな音が響き、後ろを振り返ると、軽トラックとつぶれたトマトのような赤色が目についた。

ねむりんは、その光景に口を抑え、目をつぶる。

目を開くと、また場面か変わっていた。

そこは、どこかのショッピングモールの通路のような場所だった。

人が笑顔で買い物をする中で、一人だけで歩いている少女が目についた。

白と黒を基調にした服は、彼女を着飾るように、とても似合っている。

だが、彼女は消えていた。

大きな固まりに押し潰されていた。

「なにしにきたの?」

その言葉に、ねむりんは振り返る。

すると、先ほど潰された少女が立っていた。

「いや、なんであなたのような存在がここにいるんです?」

少女はイライラしているのか、棘のある言葉を放つ。

「わたしは魔法少女だから、困っている人たちを助けているのです」

ねむりんはニヘラと笑顔をつくる。

「……わたしは、死神に好かれているの」

「これは、過去の記憶の再生みたいなものなのよ」

「だから、あなたには救えないよ

ねむりんは、彼女が何を言っているのか分からなかった。

「過去に何度も死に、殺され、今もいつ死ぬかビクビクしてるわ」

「あなたは、魔法少女なの?」

「死神に見初められた一般人よ」

場面が転換する。

とある親子と暮らし始め、たこ焼きを販売している場面。

「あの頃は楽しかったな……」

少女は笑っていた。しかし、ねむりんには泣いているように見えた。

ねむりんは、少女の体をそっと抱き寄せる。

「なにをするの?」

「わたしには、あなたの苦しみは分からないけど、こうやってそばにいることはできるよ」

少女は、ねむりんの言葉で、声を殺して泣いた。