太陽あかりがセフィロ・フィオーレに転入してから、るなちゃの様子が変です。
彼女が仲間に加わって楽しいのは、みんな思っていることですが、るなちゃが太陽あかりを見る目がですね、なんか恋してる少女の目なんですよ。
そして、不思議と頬を染めている。
たぶん、太陽あかりに一目惚れしたんですね。
わたしがるなちゃの異変に気が付いたのは、太陽あかりの噂話をしていたときでした。
「あかりって娘、やっぱりここに入ることにしたんやな」
歓迎ムードでぎんかが言います。
「わ、わたしもそうなってくれるとうれしい」
そう呟いたるなちゃは、赤くなった頬に両手を当てていました。
それは恋する少女のように。
「あかりさん、戦ってるとき、カッコ良かった」
そのときは、ただの憧れだと思ったんだけど……。
彼女が本気だと気付いたのは、太陽あかりが地下牢に入れられたときでした。
「私、あかりさんに食事を持っていく」
「あかりには、積極的やな~」
ぎんかは茶化していましたが、これがきっかけだと思います。
まさに、太陽に照らされる月のようでした。
地下牢に入れられていた太陽あかりは、吹っ切れたようにな表情で、ここに残ることをわたしたちに告げました。
それを聞いたぎんかたちは、よろしく~と言葉を交わしています。
わたしは、彼女たちのテーブルにドンッとたこ焼き特盛バージョンを差し出し、
「よろしくお願いしますね」
と、歓迎の言葉を述べました。
てんどん……じゃなくて、天童三姉妹の健康診断が始まりました。
今回は、組織に新しく入った太陽あかりの健康診断です。
「おまえも受けるんだ」
え!?
わたしは、ゴスロリ服を脱がされてしまった。
「なにすんねん!?」
端から、関西弁だ、という声が聞こえたけど、反論する余裕はありません。
「以前、重症を負ったお前の体は完治したとは言えない」
わたしは、体を隠すように自分を抱きしめる。
「慣れてるので」
「さあ、自分をさらけ出せ!」
「なんか、エロいなあ」
こうして、天童三姉妹のお医者さんごっこがはじまった。
「はい、ばんざーい、してくださーい」
「胸、小さいでしゅね」
ほっとけ。
お医者さんごっこという名の健康診断が終了した後、太陽あかりから声をかけられた。
「ねえ、りんねちゃんって、ぎんかちゃんのお姉さんなんだよね?」
「さあ、どうでしょう?」
わたしは、彼女に意味ありげな台詞を言う。
「わたしたちは、姉妹ですが、どちらが姉とか、どちらが妹とか、決めてないんですよ」
「どういうこと?」
夕暮れの景色に目を向けて、懐かしく昔のことを思い出していた。
「わたしは捨て子だったんですよ。捨てられたところ、たまたま白金家に厄介になったんです」
「あ、ごめんなさい」
「いいえ。……それが理由で、姉妹の上下関係を意識したことはないんですよ」
それが一番だと思っていたけど、あの子はどう思っているのかな?
父の日ではないのですが、わたしとぎんかの父親である、白金弥太郎がセフィロ・フィオーレにやってきました。
全国展開するサンチョ・パンサというチェーン店の社長です。
わたしがつくっているたこ焼きも彼仕込みなのです。
ぎんかは父親の顔を見るや否や、彼の胸に飛び込んでいきました。
わたしは、そんな彼女と父親をほほえましく見ています。
「なんや、お前も遠慮せんで飛び込んできてもええんやで?」
「いや、そんな年じゃないです」
「何言うてんねん。ぎんかと同い年やないか」
いいえ、彼女より数倍生きてます。
父さんは、わたしの頭に手をポンと乗せて、やさしく撫でてくれました。
「意地はらんで、ええんやで?」
わたしは、その手を払いのけることもできたというのに、そのぬくもりを感じていたくて、そのまま撫で続けられていました。
しばらくして、エティアさんがやってきた。
「それじゃあ、わては、エティアたちと話があるさかいに」
彼の手が離れるのは、少し名残惜しい。
「なんや、結局甘えたいんやないか」
ぎんかがやれやれといわんばかりな表情をしていた。
父さんが先生の二人と話をしている間、ぎんかが自分ら家族のことをみんなに話した。
「うちら貧乏やってな。りんねがうちらの家族になってから、借金もチャラになったんや」
それを聞いて、みんなはわたしを称賛しているが正確には違う。
「それ違う、最初だけ」
そう、最初だけだった。
「わたしは最初だけ手伝った。でも、経営者として成功したのは父さんががんばったから」
何十年生きていても、会社の運営とか、経営学とか分からない。
それに、
「ただ、便乗しただけ」
あの日、生きていくために、たまたまあの人を見つけただけ。
その言葉は、ぎんかには聞こえなかったようで、
「それでも、あたしらを救ってくれるきっかけを作ってくれたんや。感謝してるんやで」
彼女がわたしにウインクしてみせる。
わたしは、彼女の背景に翼が見えた気がしました。
彼女の輪郭がゆがむ。
「なんで、手合わせてるんや?」
ぎんかは、拝みたくなるほど、輝いていた。
原点:幻影のメサイヤ
原作:幻影ヲ駆ケル太陽
二次小説:げんえいにっき