【げんえいにっき9】きんかうらおもて

懐かしい夢を見た。

それは、貧乏だったウチらを救ってくれた、彼女が来たときのこと。

父ちゃんの事業が失敗して、借金取りが頻繁に玄関の扉を叩く。

音におびえる毎日が続くかと思ってたんや。

けど、ウチより幼く、白い髪と肌に黒いヒラヒラした服――あれは、ゴスロリ言うたはずや――を着た壊れ物のような少女が、家の扉を開けた。

彼女の第一印象は、『人形』やった。

無表情で、口から出る言葉に感情などはない。

喜怒哀楽が全くオモテに出てこない。

不思議で不気味さがあった。

父ちゃんと、一言、二言話した後、彼女は、袖から千円札を数枚取りだし、畳の上に滑らせるように父ちゃんの目の前に差し出した。

「ここに住まわせてほしい」

貧乏な自分らの家で、ゴスロリ服を着た少女が土下座してた。

当然、父ちゃんも困惑して理由を聞いた。

「わたしは、捨てられたんだ。どう生きていいか分からない。仕事も手伝うし、寝床さえ借りられればいい。だから、お願いします」

それを語る彼女は、表情など一切変えずに、再度、頭を畳にこすり付けていた。

「父ちゃん、父ちゃん……」

うちは、父ちゃんに進言してた。

自分らに必要なのは、”変化”やった。

何も進まない停滞した日常。貧乏を脱出するには、きっかけが必要だと、ウチは思っていたからだ。

一人増えれば、その分だけ苦しくなる。

それでも、ウチは彼女なら、と期待してたんや。

こうして、自分に、新しい姉妹ができたんや。

りんねと一緒に仕事に出かけた父ちゃんは、その日にホクホク顔で帰ってきた。

何でも、いつもより3倍の売上だったらしい。

りんねに話を聞くと、彼女はただ立ってただけだと言った。

なんでやっ。

なんで、そんなんで売上3倍になんねんっ。

追求していくと、そのゴスロリ容姿が受けたのだとすぐに理解した。

もの珍しさが受けたのだと。

その日は、珍しく、寿司がテーブルに乗った。

包装パックには、スーパーの半額シールがついていた。

行列のできるたこ焼き屋として、グルメ雑誌にも紹介されるほど店が大きくなったのは、りんねの影響が大きい。

彼女の仕事服は、ゴスロリ服。

それは、彼女が仕事場に立ったときから、全く変わっていない。

ゴスロリ服にエプロンをつけて、お客さんに商品を手渡す姿は、とても絵になっていた。

「それにしても、すごい娘だねえ、りんねちゃんは」

テレビの絵に釘付けになっていたうちに、本田のおっちゃんは苦笑していた。

「ぎんかちゃんから、家族が増えたと聞いたときは、度肝抜かれたけど。こうしてみると、もう家族だな」

「おっちゃん、それはりんねに失礼や」

本田のおっちゃんは、ごめんごめんと、誤魔化すように笑っていた。

「そういえば、どっちが姉で、どっちが妹なんだい?」

「それは、決めてないねん」

本田のおっちゃんが、顎に手を当ててハテナマークを浮かべていたので理由を言っておく。

「ウチらは、一応同い年なんやけど、りんねは、誕生日を捨てた言うて、頑なに言わんのや」

本田のおっちゃんは、テレビに映るりんねを哀しそうに見る。

「ウチには、りんねが姉だと思ってるんやけど……」

それは、独り言。

その頃から、うちは、あんたのことを姉と認めてたんや。

父ちゃんがたこ焼き屋を畳んで、会社サンチョ・パンサを立ち上げた頃、ウチは、りんねの才能とも言える技術に驚愕した。

やっぱビジネスの世界は、パソコンができてた方がええんやけど、りんねの場合は、そのスキルが異常だったんや。

ブラインドタッチで、キーボードが打てるのはええんや。

でも、ビジネス文章を間違いなく、打てる知識はどこから来たんや?

父ちゃんが教えたのか聞いたら、そんなことはないとだけ答えが返ってきた。

父ちゃん曰く、りんねは、物事を吸収する力が異常に高いらしい。

作業を一通り教えただけで、すぐさま実行する。

教えなかったことも、まるで知っていたかのようにこなしてしまう。

傍にいる姉と思っていた存在が、どこか遠い地にいる気がしてならなかった。

それからやろか、勉強において手を抜くことをしなくなったのは。

完璧な人間などは居ず、誰しも欠陥を抱えている。

当然、自分の姉にもそれはいえる事。

どんなに勉強ができても、運動だけはできない。

よくそんな体で、父ちゃんの仕事を手伝ってたと、内心で呆れたこともあった。

でも、一番驚いたのは、りんねの体は痛みを知らないことだったんや。

痛覚がない。

それは、学校の授業で起こった。

「りんね、血ぃ、出てるで」

指摘したら、慌てて隠すように出血箇所を隠してた。

血が出てるのに気づかない。

そんなことが頻繁に起こるものだから、りんねに聞いてみる。

「わたしは、痛みを感じないの」

すごいでしょ、と言い放った。

「なんで、そんな重大なこと話さなかったんや!」

そのときが初めての姉妹喧嘩やった。

いや、りんねから見れば、あれは喧嘩やなかったかも知れん。

黙っていた理由が、心配かけたくなかったから、というものだったから。

平手打ちしてやった。

自分もなぜ、そんな行動をしたかわからへん。

「自分ら家族やないか、赤の他人やないんや。心配させてえな」

そのとき、無表情だったりんねの顔が歪んだ。

悲しいのか、うれしいのか。涙がボロボロ流れていたことは、はっきりと覚えとる。

『人形』が人形でなくなった瞬間を見た。

どちらが姉でも妹でも関係あらへん。

ウチがりんねを守ったる、と誓った。

原点:幻影のメサイア

原作:幻影ヲ駆ケル太陽

二次小説:げんえいにっき