るなちゃが転入して以来、わたしは仕事を終えた彼女たちにたこ焼きを振舞っていた。
彼女は初仕事の後に、たこ焼きが食べたいと言い出したのだ。
「あなたのたこ焼きが食べたいんです」
と、握りこぶしをつくって言われてしまっては、作らないわけにはいかないでしょう。
エティアさんが調理器具と材料をどこかから調達し、校舎内のキッチンスペースを借りてつくってみた。
それにしても、エティアさんは自分も食べてみたかっただけなんじゃないかな?
わたしのたこ焼きは大好評だったため、仕事後には、たこ焼きを用意することがわたしの役目となってしまいました。
毎日、たこ焼きばかりだと飽きると思うのですが。
ちなにみ、るなちゃとは月詠るなのことです。
本日のおしごとは、上級生の先輩方とるなちゃコンビと、ぎんかとせいらさんコンビで街のパトロールをするようです。
そして、わたしはお留守番……。
毎度毎度のことなので、たこ焼きの差し入れでも使用かと、いつもより多めにたこ焼きをひっきり返しております。
そういえば、ミーティングでダエモニアの発生地点で気になる場所がありました。
るなちゃが向かった先は、わたしが建物崩落に巻き込まれて死亡した場所なのです。
何の力もないわたしが現場に行くなど、自殺行為でしかないのですが、その場所がとても気になります。
好奇心ではありません。
何かに呼ばれている気がしたのです。
わたしは、つくったたこ焼き6パック分をリュックに詰めると、ゴスロリ服をはためかせて、走り出しました。
彼女たちが戦うフィールドは、一般人が行くことはできません。
しかし、現実世界で起きる災害への避難には、わたしでもできることがあるはずです。
「お姉ちゃん、そんなに急いでどうしたの?」
学院の門を出ると、ふいに声を掛けられて立ち止まる。
まだ幼い、淡い水色の髪を持つツインテール少女がいました。
「友達がいるところまで行くの」
簡潔に理由を言い、慌てて走り出そうとすると、少女に止められる。
「だったら、私が連れてってあげる」
その言葉に、どういうこと、と疑問を投げかける前に、わたしの目の前の景色は一変した。
風景のキャンバスに絵の具をぶち撒かしたように、周囲はどす黒く、息苦しさがあった。
「ここは?」
ふと隣りの少女を見ると、見る影のなく消失していた。
空を見上げると、よく知る少女たちが、巨大なベルを形作った化け物と戦っていました。
氷の髪飾りをして、いつもよりクールさが増している星河せいら
ケモ耳を生やした、いつもより可愛さが増した月詠るな。
天使に似た羽を装着した、いつもより凛々しさが増した白金ぎんか。
ここは、アストラルクスだと確信しました。
氷柱を大量生産して、ダエモニアにたたきつけるせいらと、金貨を大量生産して攻撃し、巨大な盾で防御も行うぎんか。
二人の攻撃を邪魔にならないところで見ているるなちゃ。
数ではタロット使いが有利なのに、音の衝撃と、黒い弾幕がせいらとぎんかに襲いかかる。
ふと、自分の死ぬ瞬間がフラッシュバックする。
このままでは、二人は昔の私のようになってしまう。
そんな予感がしました。
「ふざけんなぁぁぁぁぁ!」
わたしは、叫び声を上げて、憎悪の対象に向かいます。
標的をわたしにかえたベルもどきは、わたしに弾幕の雨をふらせます。
当たらなければ、どうということはない。
いえ、わたしの体は痛みを感じないため、当たってもどうということはないのです。
真面目に体育の授業も受けていないわたしの運動能力は、一般人より劣る。
弾幕は、着弾した地面をえぐり、体をかすめた場所から血が吹きだす。
お気に入りの服はズタズタ。体はボロボロ。
それでも、化け物へ特攻する。
「なんで、来たんや!?」
誰かの抗議の声が聞こえたが、それでもやめない。
チラッとタロット使いの方を見ると、るなちゃの光が、せいらとぎんかを包んでいるのが見えた。
気がそれたためか、わたしの脳を揺さぶる衝撃が届いた。
勢いを殺すことなく、前方へ身を投げたわたしは、地面に体をたたきつけました。
そこから、意識はありません。
次に目を覚ましたのは、学び舎のよく知る部屋のベットの上でした。
タロット使いでもないわたしが、ダエモニアに向かっていくなど無謀なことです。
目を覚ましたわたしは、エティアさんからそう言われました。
それから、アリエルさんも交えて、事情聴取と説教が始まりました。
校舎を出たところで、少女に出会い、彼女にアストラルクスに連れていかれたこと。
ぎんかが死ぬと思って特攻をかけたこと。
一応、注意をそらすという目的はあったけど。
でも、そのことを話すと、アリエルさんに叱られた。
「自分の体を大切にしろ」と。
わたしは、叱られたことがうれしくて、つい笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「いえ、あまりにも、久しぶりに怒られたものですから」
そういうと、二人は黙ってしまいました。
「大丈夫、まだ、生きられる」
呟いた隣りでは、先生役の二人が心配そうに見つめていたことを知らなかった。
昔、クラスメイトだった太陽あかりと心崎冬菜。
彼女たちの様子がおかしくなったのは、冬の季節の頃からだった気がする。
太陽あかりは、いつも明るく眩しい。
それとは、対照的に太陽の影を探すようになっていった心崎冬奈。
その要因は、ダエモニアが関係していたのだろうか。
セフィロ・フィオーレの手伝いの最中、たまに二人を見かけることがあった。
エティアさんからの依頼で、太陽あかりの様子を観察することもあったけど。
太陽あかりの様子について報告した数日後、エティアさんから妙なことを聞かれた。
「太陽あかりさんの親友である心崎冬菜という子を知っているかしら?」
いや、知っているも何も、調査内容にもしっかり記載されてるんですが。
「そう、記憶はあるのね」
ふう、と一呼吸の後、
「心崎冬菜さんは、亡くなられたわ」
エティアさんは、衝撃発言を放ちました。
呆然としていたわたしに、彼女は続けます。
「このことを、太陽あかりさんには伏せておいてください」
その瞳には、お願いというより命令だと告げているようでした。
わたしは、それに抗うことなく頷く。
その宣言から数日後、永瀧の有名な占い師の館が火災で全焼する事件が起きました。
それはダエモニアが関係していたため、タロット使いたちが出動した。
大事なく、タロット使いたちは帰宅しました。気絶した太陽あかりを連れて。
原点:幻影のメサイヤ
原作:幻影ヲ駆ケル太陽
二次小説:げんえいにっき