【げんえいにっき10】しあわせだった

「ホンマか!? ホンマに、本田のおっちゃんの会社持ち直したんか!?」

愛用のたこ焼きクッションを抱きしめて、横になっていると、ぎんかの声が部屋に響いた。

何事かと、体を起こすと、ぎんかは笑顔を浮かべた。

「本田のおっちゃんが、不死鳥の如く復活したんや」

なにそれこわい。

どうやら、本田さんは鳥になったようです。

というのは冗談で、彼の会社が経営危機から脱したようです。

それは、とてもうれしいことです。

しかし、その原因は父さんでも分からないという。

何か匂いますね。

アリエルさんから、今日は休めと言われました。

おそらく、腕の怪我を心配してくれたのだと思います。

「お前も父親との時間が必要だろう」

厳しく、冷徹なアリエルさんが、そんなことを言うなんて、今日は看板でも降ってくるのではないでしょうか。

「いつも、姉ちゃんは遠慮してるさかい、父ちゃんにもっと甘えてもええんやないか?」

甘えてるわたしなんて、わたしじゃない。

「ちょっとまって!」

突然、あかりが声を上げた。

「ぎんか、いつからりんねをお姉ちゃんって読んでるの? というか、りんねがお姉さんだったの?」

わたしとぎんかは、あかりに質問攻めにあった。

社長である父さんは忙しい。

忙しいはずなんだけど、電話したらワンコールで出た。

「もしもし、わいや、わい」

「そんな、詐欺のテンプレはやめてください」

「いや、お前が電話してくるなんて珍しくて、ついな」

「今日の、父さんの予定を聞きたくて」

電話ごしに、紙をペラペラとめくる音が聞こえてくる。

「今日もバリバリ仕事や。じゃが、夕方には終わる予定や」

その言葉に、わたしはホッとしました。

「それなら、夕食、ふたりで、どうかな?」

「ぎんかも一緒やないんか?」

その言葉に、反論の言葉が出てこない。

「まあ、ええわ。それなら、どこかで待ち合わせしよか?」

待ち合わせ場所を決めて電話を切る。

ケータイをベットに放り投げ、体を沈ませた。

……先ほどのやり取りは、デートの約束をするときの乙女ではないか。

わたしは、しばらくベットの上で落ち込んだ。

わたしは父さんを連れて、雑誌にも紹介された中華街の有名店へ足を運ぶ。

生まれ変わっても、好みは相変わらず、わたしは角煮まんが好きなのです。

「本当に、こんなんでええんか?」

「いいの、これが食べたい」

父さんが、店員さんに注文する。

「ほんなら、角煮まんをひとつずつもらおか」

「いやいや、角煮まん10個くださいな」

そう言うと、時間が停止した。

「10個やて、みんなのおみやげか?」

ああ、それもありましたね。

「追加10個で」

「ちょっ!?」

店員さんは苦笑いで、注文分の品を包んでいた。

小さな女の子には、大量の角煮まんが入った紙袋は、重かったようです。

さすがにもてないため、父さんに持ってもらいました。

歩きながら、角煮まんを頬張ります。

「しかし、こないなことでよかったんか? もっと、豪華なステーキとか外食できたんやで」

角煮まんはなかなか美味なのですが、買い食いの楽しさが分からない父さんに、意味を説いてやりましょう。

「……むかし、弥太郎さんは、ぎんかを駄菓子屋に連れていったことがありますか?」

弥太郎さん、と他人行儀な呼び方に、父さんの雰囲気が変わった。

「わたしは、あのひとたちと、こんな買い食いをしたことが無かったのですよ。親に甘えて、お菓子を買ってもらって、食べながら街を歩く。今食べてるのは、角煮まんだけどね」

父さんを見ると、哀しそうに顔を歪めていた。

「こういうのは、いっしょに食べながら歩くのが、楽しくなるコツなの」

父さんは、自分の手にある包み紙から角煮まんを取り出し、わたしと同じように食べる。

その空気に浸りたくて、しばらく無言で街を歩いた。

いつの間にか周囲は暗くなり、賑やかなネオンが空中を踊っていた。

「いつの間にか、暗くなってしまいましたね」

「ほんなら、ここでお別れやな」

そう言いながら、角煮まんの紙袋を渡してきた。

袋を受け取ると、わたしの頭にポンと手を載せてなでてくる。

その感触が心地良く、うっとりしてしまうが、背後から来る視線に気づいてしまった。

「ぎんかのこと、これからもよろしゅうな」

手が頭から離れると、父さんは今来た道を歩いていく。

これでいいんだ、と口には出さず、自分の行為を肯定する。

父さんの後ろ姿が見えなくなるのを確認すると、わたしは視線の元を辿るように、暗闇をじっと見据えていた。

「へえ、親に助けを求めないんだ」

声を主は、以前に私を刺したツインテールの少女。

そして、目が空ろな本田さんがいた。

「本田さん……」

少女の操り人形と化した本田さんは、禍々しい空気を発散させています。

「おじさん、やっちゃって」

少女の声で、本田さんがニタリと笑った。

ゴゴゴッと容を変形させるような音とともに、周囲の看板が浮き上がる。

ポルターガイスト現象は、本田さんの意思を受け取ったように、わたしに向かって飛来した。

わたしは、看板を避けようと体をひねるが、転んでしまった。

その真上を風をきって何かが通過し、数秒後にガッシャーンと大きな音を立てた。

「おしい、もうちょっとだったのに!」

指を鳴らして、ゆかいに笑っている少女は、完全にゲーム感覚だった。

イラッとしたわたしは、彼女めがけて、角煮まんを投げる。

「なによ、これ?」

結果、少女は普通にキャッチし、包みをはがして、角煮まんを口に運んでいた。

「おいしいじゃない、コレ」

所詮、わたしより幼い少女だった。

その隙に、わたしは逃げ出した。

角煮まんが地面に散らばっているが、自分の命よりは惜しくない。

「あ、待ちなさいよ!」

振り向くと、本田さんがゾンビのように手を上げて、ゥウゥゥゥオオオと唸りながら近づいてきた。

はっきり言って、キモイ、コワイ!

そして、散らばっている角煮まんを拾い食べている少女は、モグモグしながら本田さんに指示していた。

周囲の建物から看板が、次々と後ろから、前から飛んでくる。

電信柱から電線が切れ、稲妻のように電気が走りながら落下してきた。

わたしは、思わず足を止めてしまう。それと、同時に衝撃が体を走った。

何が起こったのかわからなかった。

ただ、地面を転がっていることだけは分かった。

痛みは感じない。しかし、冷たい感覚が頭を、背中を伝っていく。

自分が仰向けになっていることに気づいたのは、空中に浮いている看板を見つけたから。

「ずいぶんとあっさりやられちゃったね」

ツインテールを揺らしながら、少女がにたにたとしながら私わたしを覗き込んできた。

キラリと光るナイフが握られている。

心臓を一突きすれば死ぬ。

痛みを感じないけど、骨折しているのか、足のろくに動かせない。

体を起こそうにも力が入らない。

「死にとうないなあ……」

せっかく幸せな家族ができて、幸せな生活ができて、妹もできたのに。

しにがみは理不尽だ。

せめて一矢報いたい。

その想いが、相手に手を伸ばす。

「命乞いかな?」

どこか、空間が歪んだ気がする。

そこには、カードが握られていた。

「なぜお前がそれを!?」

少女の表情が驚愕にそまった。

何かがうごめき、少女を襲った気がするが、わたしの目はぼやけて見えない。

もう死ぬのかな?

最後に、父さんと楽しく過ごせたから、親孝行できたかな?

ぎんかには、あまりお姉さんできなかったことが心残りです。

父さん、ぎんかありがとう。

わたしは、白金りんねは、幸せでした。

原点:幻影のメサイヤ

原作:幻影ヲ駆ケル太陽

二次小説:げんえいにっき