【げんえいにっき3】白金親子の人生ビフォーアフター

先日から、わたしはボロいアパートの一室を借りています。

家賃無料なのに、なんてずうずうしいんだ?

そんな声が聞こえてきそうですが、無視します。

昨日の出来事をまとめると、

ヤのつく人たちが扉を凹ませていました。

彼らが去った後、たこ焼き親父さんを訪ねました。

勢いで、転がり込みました。

わたしは、たこ焼き屋店主、白金弥太郎氏の家に住み込みで働けることになったのです。

もちろん給料なんてもらえません。

わたしは、どんなに長い年月を生きていても、今は小学校入学前の身なのです。

お店を手伝うかわりに、食と住を提供する。

それが、わたしと彼の交わした契約です。

彼には、ひとり娘がいます。

白金ぎんかという、変わった名前の娘です。

お金がざくざくと入ってきそう。

でも、現在は貧乏な日々を送っています。

彼女は、タロットカードで占うのが趣味のようで、

わたしを占おうとカードを出してきましたが、丁寧にお断りしました。

タロットカードには、少々トラウマがあるので。

わたしは、屋台の前で弥太郎氏の焼くたこ焼きをお客さんに手渡すという作業をしていた。

火気類は、危ないので触るな、とのこと。

だから、パックに詰め込まれたたこ焼きの受け渡しを行っているのです。

これなら、子どもが親を手伝っているだけ。

周囲からは、ほほえましい光景が映っているはず。

しかし、気持ち的にはバイトです。

初日終了後、弥太郎氏から笑顔でお礼を言われた。

日頃の収益の3倍は売り上げたそうな。

その理由が、「ゴスロリ服を着たわたしの珍しさに惹かれたからだ」と分かったのは、手伝い始めて大分経った頃のことでした。

白金弥太郎氏は、事業に失敗した経験があり、多額の借金がある。

なぜ、自分が苦しい状況にあるのに、わたしという小娘をいっしょに住まわせてくれるのか?

お金に少しゆとりができたとき、わたしは彼に聞いてみた。

自分でいうのも変な話だけど、赤の他人の家に押しかけて住まわせろ、という身勝手なお願いは、一昨日着やがれと、蹴られて追い出されるのが普通です。

わたしを受け入れてくれた理由は、彼の娘のお願いがあったから。

そう教えてくれました。

白金弥太郎氏の娘である白金ぎんかは、その日のタロット占いで『転機』の結果がもたらされた。

占いの結果を見ても、半信半疑だったのですが、わたしという予想外の来客に、わずかな希望を抱き、父親に進言したとのことです。

結果は、先に述べたとおり。

店の手伝いといっても、役に立つことはしていません。

しかし、収入が少しずつ増えているようです。

まあ、この親子が笑ってくれるなら、自分のような存在がいてもいいのかな、と思い始めています。

人生は何があるか分からない。

それは、繰り返す人生の中で、わたしが捨てた言葉です。

中学生になれない人生。

最後は無残に死ぬ人生。

短い生涯に、見出す希望も幸せもありません。

そんな冷めた人生観を持ってしまったわたしには、白金親子の人生は、とても激しいものだと感じます。

白金弥太郎氏は、たこ焼き屋で稼いだ資金を元手に始めた事業で返り咲き、ディスカウントチェーン「サンチョ・パンサ」の社長になりました。

道中で、彼の友人である貿易会社「ラ・マンチャ」の社長、本田浩二郎氏の助けもありましたが、ここまで劇的な人生ビフォーアフターを間近で見られるとは思いませんでした。

ついでに、わたしは白金の養女に迎えられました。

金髪なぎんか。

白髪なわたし。

まさに、白金。

どちらが姉で、どちらが妹なのか。

これは、決着しそうにない問題です。

養女となったことで、弥太郎氏がわたしの父親になりました。

「親父ィ」

と呼んでみたところ、白金親子は口をぽかーんと開けたまま固まったようです。

再起動したら、「お父さんって呼びなさい」と叱られました。

お父さんが社長で忙しいことも理解している。

しかし、それでも会いたいというのが子どもというもの。

ある日、ぎんかが父さんに会いたいと言ってきた。

わたしは、精神的に成熟しているから、親が恋しいと思ったことはないけど。

仕事があるということは、お金が稼げるということ。

親が働いてくれているから、自分たちが幸せでいられる。

それが分かっていても、親が恋しくなる年頃なのです。

社長は、会議やら公演やらで家に帰る暇もなく働いています。

その寂しさからか、ぎんかは自分も働きたいと言い出しました。

たこ焼き屋の手伝いとはワケが違うのです。

小学生の仕事は勉強ですよ?

「うちは、お父ちゃんの助けになりたいんや!」

その瞳には、炎が宿っているようにギラギラしていました。

ぎんかの想いを知ってか知らずか、父さんが女性を連れて帰宅しました。

まるで絵本の世界から飛び出したようなファンタジックなドレス衣装を身につけた女性は、わたしたちに深くお辞儀をする。

水色の髪は地面につくのではないかと思うほど長く、頭には十字架の刺繍が入ったヘッドドレスがある。さらに、わたしと同じく黒を基調にした衣装を見につけていた。

可愛いというより、綺麗という言葉がぴったりな着こなしです。

そして何より、胸がある。

自分の胸を両手でゴスロリ服の上から当ててみると、絶壁とは言わないけどたしかに存在していた。

しかし、目の前のたわわな胸がとても魅力的に見えた。

だって、わたしはこの繰り返す人生で、中学生になったことがないのだよ?

憎らしく、それを凝視していると、その持ち主から、「あら、警戒されてるのかしら?」と苦笑された。

そして、父さんは彼女を客間に案内し、わたしとぎんかも同席することになる。

ちなみに、現在住んでいるのは高級マンションなのです。

客間に移動すると、わたしは、スッとお客さんを含めた人数分のお茶を用意した。

わたしが席につくのを確認した父さんは、いつものおちゃらけた表情を仕事モードに切り替えて、自分の隣りの人物をわたしたちに紹介した。

彼女の名前は、エティア・ヴィスコンティ。

セフィロ・フィオーレという占い師の養成学校の永瀧支部校の教員らしい。

占い師の専門学校があったとは知りませんでした。

その先生と父さんがなぜ知り合いなのか、とても気になりますっ。

しかし、それよりも重大な発言が放たれました。

「お前たちには、そこに転入してもらいたい」

ハ?

あまりの言葉に、時が止まったかと思いました。

占い師になれとでもいうのでしょうか、この親父。

「いや、そこで警備員の仕事をしてもらいたいんだ」

わけがわからないよ。

占い師専門学校で警備の仕事をする?

わたしは頭を抱えて唸りました。

「ちゃんと1から説明してください」

説明を求めると、エティアさんが懇切丁寧に専門用語も交えながら教えてくれました。

「この世界には、災厄をもたらす存在がいます」

彼女は、ディアボロス・タロットと呼ばれる悪魔のタロットカードに乗っ取られた人間『ダエモニア』を殲滅するタロット使いという存在がいることを話しました。

そんなオカルトありえません、と言いたかったのですが、わたし自身が人生を繰り返すというオカルトっぽいことをしているので、否定できません。

「あなたが、そのタロット使いなのです」

その瞳はわたしではなく、ぎんかに向けられていました。

父さんのおばにあたる人物が『節制』のタロット使いだったらしく、その縁で、父さんはセフィロ・フィオーレを支援するそうです。

どうも、わたしが一番場違いな気がしてならないのですが。

「うちはやるでっ。うちにそんな力があるなら、それを使って今まで世話になった人たちに恩返しがしたい」

ぎんかは席を立ち、やったるでうっしゃーと、意気込んでいます。

それとは反対に、わたしは肩を落としました。

占いという単語から、過去の出来事が蘇ります。

あるときは、建物崩落によりつぶされ、

あるときは、トラックにつぶされて。

白金家でささやかに幸せを感じていたのに、再び死神の誘いがやってきたような予感が身体を凍らせます。

しかし、ぎんかを手放してはいけないという気持ちが、わたしの身体を動かしました。

わたしは、ぎんかの手を両手で握りしめ、

「わたしもいっしょについていくから」

そのとき、わたしはどんな顔をしていたでしょうか。

セフィロ・フィオーレのエティアさんは、わたしをじっとみつめた後、ニッコリと微笑み、

「あなたたちを歓迎するわ」

了承の言葉を口にしました。

原点:幻影のメサイヤ

原作:幻影ヲ駆ケル太陽

作品:げんえいにっき